東京オリンピック

『東京オリンピック』(市川崑監督)をTVで観た。1964年のドキュメントです。

当時、自分はまだ幼かったが、かろうじて覚えている競技がいくつかあった。三宅義信選手の重量挙げ(金)、女子バレーボール(日本金)、男子マラソン(円谷選手・銅)などです。国道20号がコースだったマラソンは、近くだったので母におんぶされて見ていたそうだ。自分が覚えているのはTVの映像。繰り返し放送してたので覚えているのでしょう。

東京オリンピック

80歳になる母と観ていた。「こんなにオリンピック選手の顔をちゃんと見るの珍しい」と言っていたが、確かに作品の中で人のアップが多用されている。選手はもちろん、お客さんや時には審判員を望遠レンズで狙っている。人間臭さや表情、クセを写し取ろうとする。当時、芸術か記録かで賑わせた作品。オリンピックの公式記録でもあるので一応記録はしているが、人間を撮ろうとする気持ちはとても伝わってくる。大きな組織と向かい合った仕事。さぞかし山のような苦労はあったと思います。

市川崑は大好きな監督の一人。シャープな映像美、編集テクニックの作風で知られる一方、テクニックを駆使しないオーソドックスな映画作りもあり、また絢爛豪華な大作を成功させる一方、人形劇やアニメ合成作品を手がけるなど、多くの分野で野心家であった。

また多くの監督や作家に影響を与えた。三島由紀夫は「日本映画で一番観た映画監督」と賞賛し、北野武は『東京オリンピック』から強い影響を受けたらしい。『LOVE LETTER』『スワロウテイル』を撮った岩井俊二も市川監督の影響を受けた。その彼が『市川崑物語』を作った。市川崑監督の出生から遺作となった『犬神家の一族』までの人生を描くドキュメントである。

市川崑物語

『市川崑物語』を観て驚いた。市川監督や親しい人たちへのインタビューや取材で構成しているのかと思ったら大間違い。そこに写るのは市川監督の昔の写真と、作品の映像だけ。市川監督はもとより関係者へのインタビューもない。動く市川監督の姿は最後の『犬神家の一族』のメイキングのみ。それも数分、演出をしている姿だけだ。

物語はテロップで綴られる。それも岩井俊二の主観の言葉で。テロップばかりで物語りを進める手法は、どこかで観たと思ったら、AVじゃないか(笑。自分がやってきたことだ。

テロップばかりといって、映画はつまらなくない。市川崑をちゃんと描いているので面白い。・・・違いました。もっと正確に言うと、ちゃんと取材考察した市川崑を通して描かれるのは岩井俊二監督自身で、市川監督に対する尊敬がヒシヒシと伝わるのでとても面白い。感動的でもある。

これで映画ができちゃう!というのに驚いた。おそらく市川監督へのインタビューや取材など、いろんな映像はあったのでしょう。しかし思うようにいかず、なら思い切って全部切っちゃえと、テロップだけにしたと、僕は勝手に解釈しています。僕も長年かかえているドキュメント作品があり悶々としていましたが、その潔さはとても勉強になりました。

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この記事を書いた人

A.T.のアバター A.T. 監督・プロデューサー

たかつき あきら 1982年中央大学文学部卒
宇宙企画の制作、ピンク映画の監督等を経て、制作会社4D(フォーディー)に入社し風俗情報AV等を制作。その後、共同経営でカンノン・シネマワークスを立ち上げリアルなエロを引き出す淫乱系ドキュメント派監督として知られる様になる。共同経営者が病気で倒れたため、シネマユニット・ガス(通称GAS)を設立。セルビデオ転換期に「爆乳」を主軸とした作品群をリリースし、爆乳系監督の第一人者となる。