コリアンタウンの人たち

新宿の繁華街近くに事務所を移転してから半年経った。
以前は住宅街の中にあり、肩身を狭く感じていたのだ。早く引っ越したかった。

繁華街に引っ越してからいろんな場面に遭遇した。

お昼頃、会社への通勤路で毎回見かけるのがホストや客の女らが店から出てくる光景。こんな時間までやってるんだと感心。大変な仕事ですな。一度知り合いの女優に出くわす。ホストと一緒だった。結婚したのに、こんなことしてていいの?ご主人も知り合いだから複雑な気分。「もう離婚しようと思って」と彼女。ご主人は元ホストだったけど、またホストなんだね。ちゃんと話を聞いてくれる男がなかなかいないから気持ちはわかるけど。しっかり生きて下さい。また会いましょう。

裏道を歩いてるとなんだか妙な雰囲気。黒塗りのベンツやら国産車が並び、黒いスーツで強面の男たちが数人立っている。離れた所にも同じような車と人影。
どうやら近くにヤクザの事務所があり、そこで別の事務所の組員と打ち合わせでもしているのだろう。妙に張りつめた空気の中、想像だけがふくらむ。撃ち合いになったら走って逃げられるかなとか、シマのことでもめてるのかなとか。横目でこいつは将来幹部になるんだろうなとか、どうしてヤクザになったのかとか。妄想ができてちょっと面白い光景である。(このヤクザ同士の張りつめた打ち合わせは数回鉢合わせた)

帰り際、夜10時ころの韓国人街。30代の女性に声をかけられる。
「お願いがあるのですが」
ナンパか、商売かと思った。
「実はそこの韓国レストランで、私の彼氏が私の知らない女性と一緒にいるのを目撃しちゃったんです。浮気してるみたいなんです」
ちゃんと見ると、ナンパや商売女ではないことがわかる。
「そのお店に踏み込みたいのですが、一人で入る勇気がなくて・・・ 一緒にお店に入ってもらってもいいですか。入ってもらうだけでいいです。後は彼と私とで話をしますから」
店に一緒に入ってもらう人を探していたみたいだった。
「僕にできることならやりますよ」
「わたし間違ってますか?」と聞いてくるので
「間違っているかどうかはわかりません。ただやって後悔するか、やらなくて後悔するのか。僕はどちらでもいいですよ」
「ではお願いします」
僕が先頭になり、彼女が後ろに隠れるようについてくる。彼女が震えているのがわかる。
お店のガラス戸をガラガラと開ける。カウンター10席くらいの小さな店だった。カウンターの一番手前に座っていた女性連れの男が振り返る。その男の顔がみるみる変わっていく。まるでスローモーションを見ているようだった。男は連れの女に一声かけ、外に出る。
自分の彼氏を外に連れ出すことに成功した彼女は
「どうもありがとうございました。ここまでで結構です」と深々と頭を下げた。
「では気をつけて」私は歩き出した。
振り返ると、呆然と立ちつくす彼氏を前に道ばたに崩れ落ちて泣き崩れる彼女の姿があった。

新宿に来ていろんな光景に遭遇します。

この記事を書いた人

A.T.のアバター A.T. 監督・プロデューサー

たかつき あきら 1982年中央大学文学部卒
宇宙企画の制作、ピンク映画の監督等を経て、制作会社4D(フォーディー)に入社し風俗情報AV等を制作。その後、共同経営でカンノン・シネマワークスを立ち上げリアルなエロを引き出す淫乱系ドキュメント派監督として知られる様になる。共同経営者が病気で倒れたため、シネマユニット・ガス(通称GAS)を設立。セルビデオ転換期に「爆乳」を主軸とした作品群をリリースし、爆乳系監督の第一人者となる。