家に猫が二匹いた。

一匹は21歳の老黒猫で、もう一匹は雲仙から来た三毛猫。その21歳の黒猫が死んだ。21歳というと俺がAV監督になったばかりの頃に産まれたことになる。1983年生まれの、人間でいうと140歳くらいだそうだ。

俺がその猫と知り合ったのは15年くらい前。彼女(籍を入れてないこともあり、妻?のことをそう呼んでいる)と一緒に暮らし始めて出会った。彼女がその黒猫と出会ったのは雪の降る日に段ボールに捨てられていたという。何もわざわざ雪の降る日にすてることはないと思うが、その日の出会いは忘れられないという。

猫は(人間も同じだと思うが)季節変わりに弱い。一昨年に死んだ20歳の美猫も季節変わりだった。その美猫は暑い夏を越して急に元気がなくなっていった。

美猫と黒猫は雄同士なのだが夫婦のように仲が良かった。いつも一緒に丸く寝ていた。雌同士はだいたい仲が悪い。何年経っても喧嘩ばかりしている。人間も同じですよね、女同士って仲が悪い。一昨年の美猫の死はショックだったが、まだ黒猫がいたから救われていた。「まだ黒猫がいるから」と納得させていた。その黒猫が死んだのだ。

今回に限っては焼いてしまうのではなく、遺体をそのまま残したいと思った。剥製にしようと思った。けど、やめて遺骨を持ち帰った。動物霊園で隣り合わせた人は「まだすごく綺麗だよ」と柩に顔を突っ込みながら、二ヶ月前!の遺体(猫)に長いこと別 れを惜しんでいた。気持ちはよく分かる。 黒猫がいなくなって生活に穴が空いたような感じ。

雲仙からの三毛猫もいるが、申し訳ないけど黒猫とは格が違う。もう子供と一緒だった。彼女はペットロス症候群になってしまった。これもよく分かる。俺ももちろん悲しかったが不思議と涙は出なかった。どうしたんだろう、俺は。

この記事を書いた人

A.T.のアバター A.T. 監督・プロデューサー

たかつき あきら 1982年中央大学文学部卒
宇宙企画の制作、ピンク映画の監督等を経て、制作会社4D(フォーディー)に入社し風俗情報AV等を制作。その後、共同経営でカンノン・シネマワークスを立ち上げリアルなエロを引き出す淫乱系ドキュメント派監督として知られる様になる。共同経営者が病気で倒れたため、シネマユニット・ガス(通称GAS)を設立。セルビデオ転換期に「爆乳」を主軸とした作品群をリリースし、爆乳系監督の第一人者となる。