ドキュメントについて

NHKの「関口知宏の中国鉄道大紀行」が楽しい。中国の鉄道36000kmを一筆書きする紀行ドキュメントです。再放送以前(本放送)から楽しく見ていた。思わず見入ってしまう。

関口知宏の中国鉄道大紀行 最長片道ルート36,000Kmをゆく

元々ドキュメント番組は好きで、報道系・動物系・科学系・人間ドキュメント系問わず見ている。この番組の売りは中国の鉄道や素晴らしい風景にある。しかしそれ以上に面白いのは朴訥としたいなかの中国人です。列車内や町中、田舎で出会う人々、みんな顔がいいのだ。素朴で人柄の良さが伝わってくる。

旅人の関口さんが同じように人柄が良いから、その引力の功績も大きいが、それだけではない。昔の日本人はきっとこういう感じだったんだろうなあ、いまの日本にはないなあという郷愁にも似た想い。国家としての中国は嫌いだが、いなかの中国の人々は見ているだけですがすがしい。

また演出もいいのだ。ずぅっと関口さんだけを写していても飽きてしまう。カメラは面白そうな人にも眼を向ける。

例えば、車内で出会った新人の車掌の女の子。高校を卒業したばかりだろうか。車内での研修や実習、たった数時間の出来事だがカメラは逃さない。活き活きした顔なのだ。「車掌になるのは夢だった」とナレーションが流れる。そこからいろんな想像をしてしまう。列車の車掌になるのが夢という生活レベルだからどんな暮らしをしてきたのだろう、日本ではいつ頃の時代なんだろう・・

ドキュメントというのは、ただ撮ればいいのではありません。演出が必要です。なにを描くのかを瞬間的に決定し、頭の中で構成を考えながら、絵を探すことです。ときにはやり直しをしてもらうこともあるでしょう。やり直しの程度によってはヤラセになることもあります。この番組の演出家はヤラセをさせることなく、関口さんに絵と詩を書かせた。絵や詩という彼の虚構であり、主観を入れることで言いたいことを描くことにうまく逃げることができた。

何ヶ月も一人の若者を撮り続けるのはさぞ大変だったでしょう。しかし関口さんの人柄の良さと、彼が惹きつける中国人たちの笑顔、そしてそれらをうまくまとめたスタッフの力に頭が下がるのです。そして一人の観客として、楽しく見入ってしまうのです。あ~自分もこんなドキュメント撮りたいな、と思いながら。

  • 掲載画像はリニューアル時に編集者が追加

この記事を書いた人

A.T.のアバター A.T. 監督・プロデューサー

たかつき あきら 1982年中央大学文学部卒
宇宙企画の制作、ピンク映画の監督等を経て、制作会社4D(フォーディー)に入社し風俗情報AV等を制作。その後、共同経営でカンノン・シネマワークスを立ち上げリアルなエロを引き出す淫乱系ドキュメント派監督として知られる様になる。共同経営者が病気で倒れたため、シネマユニット・ガス(通称GAS)を設立。セルビデオ転換期に「爆乳」を主軸とした作品群をリリースし、爆乳系監督の第一人者となる。