卯月妙子さんについて

人間仮免中

『人間仮免中』(イーストプレス)というマンガを読みました。卯月妙子さんが精神的な病を抱えながら描いた作品です。ものすごく感動しました。

僕が彼女に出会ったのは一枚の写真がきっかけでした。GASの社員監督だった平野勝之さんが撮ったAV作品の中で、井口昇さん(当時AV監督)がバケツ一杯のうんこを頭から被る写真です。その写真を見た卯月さんから、「感動しました。私も同じようなことをしたい」と応募があったのでした。

初めて会った卯月さんはとても綺麗な人でした。綺麗なのに普通のセックスは出来ない、スカトロやSMがいいと言うのです。あまりの落差に驚きました。卯月さんの漫画家デビュー作品『実録・企画モノ』(太田出版)には、その当時の話が描かれています。僕と思われる人物も登場します。

僕は1000本くらいAVを撮っていますが、個人的に一番好きな作品は卯月さんの出演作『便器が出るテレビ』です。スカトロ好きの卯月さんをフューチャーしたもので、タイトルは当時人気があったTV番組「元気が出るテレビ」をもじりました。

こんなシーンがあります。食糞好きの男が、卯月さんのウンコを口の中でクチャクチャさせながら、「キスしたらダメですか?」と尋ねます。普通の女優はスカトロ好きではありません。仕事でしているだけです。卯月さんは、おそらくウンコが汚いものだと思っていないのでしょう。すごく嬉しそうな顔で頷きます。ウンコまみれの口でディープキス。見るに耐えない行為ですが、見たことのない美しいシーンになりました。

マニアの男が、「すごく感動しました。こんな気持ちは生まれて初めてです。今日のことは絶対忘れない。死ぬ間際の走馬灯に出てくると思います」自分はスカトロが正直苦手ですが、そのコメントを撮りながら涙が溢れました。ひとの心を打つものを彼女は持っているのです。綺麗な顔とやることの落差もさることながら、子供のようなピュアさが彼女にはあるのです。

AVは何本か撮影しましたが、その後卯月さんとは疎遠になっておりました。卯月さんの『人間仮免中』が漫画大賞にノミネートされているということを最近知り、読んでみました。

子育てなどいろいろあったようですが、あれからなにも変わらない卯月さんがそこにいました。やってることは物凄いし、めちゃくちゃな人生だけど、可愛くてピュアで、歳をとり人間的に深みが出ていました。あらためて卯月妙子さんは、根っからの表現者であり、それは天才的なのだと思いました。漫画大賞は残念ながら逃しましたが、読んだ人の心に残る作品です。

漫画の枠を超えて、卯月妙子という存在そのものに感動する作品です。今まで読んだ漫画で一番面白かった。ぜひお読み下さい。

この記事を書いた人

A.T.のアバター A.T. 監督・プロデューサー

たかつき あきら 1982年中央大学文学部卒
宇宙企画の制作、ピンク映画の監督等を経て、制作会社4D(フォーディー)に入社し風俗情報AV等を制作。その後、共同経営でカンノン・シネマワークスを立ち上げリアルなエロを引き出す淫乱系ドキュメント派監督として知られる様になる。共同経営者が病気で倒れたため、シネマユニット・ガス(通称GAS)を設立。セルビデオ転換期に「爆乳」を主軸とした作品群をリリースし、爆乳系監督の第一人者となる。