浅草の映画館

東京・浅草の映画館が10月21日に閉館となりました。名画座が三館ありましたが、三館とも同日に閉館となり、浅草の映画館はなくなります。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121022-00000502-san-soci
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浅草の映画館にはいろいろな思い出があります。そこには特別な雰囲気がありました。

大学時代、映画を観まくっていた頃、浅草東宝(2006年閉館)オールナイト上映で黒澤明監督の特集上映によく行ってました。映画の面白さ凄さを知りはじめた時期でした。オールナイト上映が終わり、帰ろうとしていると、客席の掃除を始めた劇場スタッフの大声が聞こえます。

「誰だ!こんな所にウンコしたのは!」

映画館の客席でウンコする人がいるんだ、とカルチャーショックを覚えました。確かに他の地域と違い、浅草の映画館の客層は50代60代の労務者ばかり。普通の映画館に行くと、客層は大概20代~40代くらいが多い。若いカップルもいる。しかし浅草の劇場には、若いカップルはほとんどいません。古くてちょっと汚いし、入りづらい印象がありました

40代になって久しぶりに浅草の名画座に「寅さん」を観に行きました。しばらく浅草を離れていましたが、劇場は当時のまま。客層も変わらずです。

山田洋次監督は一般市民の落ちこぼれの寅さんを優しく見つめます。寅さん映画は、やはり面白い。しかし、その時の楽しさは格別でした。周りにいるのは寅さんみたいな労務者たち。そんな連中と同じところで一緒に笑い、涙する。劇場という密室で、いつしか妙な連帯感みたいな感情が(自分の中で勝手に)芽生えていました。映画館でそんな感情が出てきたのは初めてでした。面白い映画体験でした。

そして閉館の前日の浅草の名画座。観たことのある映画でしたが最後の浅草体験に行きました。客層はやはり労務者が多い。閉館とあって、カメラで館内を撮影する人もいたし、席が空いてるのに立って観ている人も少なくない。

三船敏郎が出る時代劇を観ている時、後ろの立ち見客から妙な声が聞こえる。喘ぎ声だ、こんな所で・・・。気になって振り返るとおじさんたちが男同士チンコを触りあってる。そうか、ここはハッテン場でもあったんだ。だから席にもつかず、あたりを見回してる客が多かったんだ。見たくもないものを見て、「これも浅草なんだ」と自ら言い聞かせ、気持ちを落ちつかせたのでした。

浅草は面白い場所でした。またひとつ弱者の居場所がなくなりました。

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この記事を書いた人

A.T.のアバター A.T. 監督・プロデューサー

たかつき あきら 1982年中央大学文学部卒
宇宙企画の制作、ピンク映画の監督等を経て、制作会社4D(フォーディー)に入社し風俗情報AV等を制作。その後、共同経営でカンノン・シネマワークスを立ち上げリアルなエロを引き出す淫乱系ドキュメント派監督として知られる様になる。共同経営者が病気で倒れたため、シネマユニット・ガス(通称GAS)を設立。セルビデオ転換期に「爆乳」を主軸とした作品群をリリースし、爆乳系監督の第一人者となる。