「愛の嵐 鈴木麻奈美」

9月14,15日 宇宙企画


「一歩前へ」 メディアステーションのプロデューサーから鈴木麻奈美を撮らないかと持ちかけられた時、正直あまり気乗りしなかった。彼女とは既に2回仕事(プロデューサーとして)をしていたが、前作「プライバシー」(アトラス)は、彼女に惚れてしまった松井SUN監督が、その作品の中で自らの恋心をテーマに彼女に迫り、見事木っ端微塵に振られる、というものだった。彼が振られるのは別に構わない、監督を受け入れるかどうかは彼女の自由だし、好きずきはあるのだから。問題は彼女に私がインタビューしても「これは(カメラの前で)言えない」とかクレームが多く、メイキング(カメラを私が担当していたのだ)班としては至極やりずらい仕事であり、彼女に(次にインタビューしても、おそらく答えてくれないだろう)と気持ちが委縮してしまっていたのだ。だから鈴木麻奈美に対しては苦手意識が強かった。誤解してほしくない。こう書くと鈴木麻奈美は我侭でスタッフに冷たいという印象を抱かせてしまうかもしれない。全く違う。彼女が私の質問を拒むのには、彼女なりの理由があった。私のつっこみは例えば「今回から本番OKになったそうだけど、それは何故?」なんて平気で聞く。彼女にしたら「それでは今までのビデオはどうなるの? 支えてくれるファンに悪い」という。あるいは演出を嫌い、自然体のまま写してくれと主張する。(本番OKになった経緯のインタビューはダメで、自然体にこだわるのに矛盾も感じるが、ここではそこまでは言わないようにしよう) おそらくこの仕事への彼女の何らかのこだわりがあるのでしょう。非常に真面目な人なんです。だから拒絶された私は怒りではなく、萎縮してしまう。

 ただ私の心情としてはやはり「ゼロ」からスタートすることには抵抗があった。秘かに自分だけのテーマをそこで見つけた。「マイナス1」からスタートして撮影終了時に「ゼロ」になっていれば良し。彼女はそのままで自分が一歩彼女に近づけるかをテーマとした。


 初日に元男優のAV監督とのハメ撮り。「プライバシー」で松井監督とのハメ撮りがNGとなったので試したのだが、何の問題もなく終わる。「監督とのハメ撮りNGだったんじゃないの?」と意地悪く突っ込むと「今回の監督じゃないからOK」だと。二日目、彼女といろいろ話をする。詳しくは書けないが、家庭や大人に翻弄され、コンプレックスの固まりとなってしまった彼女になんか納得する。元レースクィーンだった彼女にもいろいろあったんですね。夜、松井監督本人を呼び彼女と絡ませようとすると嫌だって。打ち合わせではOKだったのに。「今回の監督じゃないけど松井監督とは出来ない」 ちょっと追い込むと凄い眼で訴えてくる。生理的にダメらしい。まあ当たり前かもしれない。こっちは嫌がることを敢えてしてるんだから。結果的には何も変化なし。一歩前に近づけたようで前進ナシだった。でも不思議と嫌な気持ちにはならなかった。いや正直に言うと、気が重くスタートした撮影だったが私の気持ちはまるっきり変わっていた。彼女の不器用なまでの真面目さに付き合ったり、悩みの相談にのるうちに彼女に可愛げを感じ始めていた。おそらくどの監督にも同じように接するのだろうし、どの監督もそんな彼女を可愛く感じてしまうのだろう。一歩前に近づけなかったしゼロにもならなかったが、そんなことがどうでもよくなっていた。そこが彼女の一番の魅力である。


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