「ジュリア 有沢成美」
12月21、22日 宇宙企画
監督・平野勝之
ウチの社員監督の平野勝之の美少女Hビデオの老舗宇宙企画の単体初監督となります。そもそも平野勝之とはカルトAV監督で、代表作にバイオレンスの「水戸拷悶」・林由美香(というAV女優)と二人きりで40日間自転車北海道野宿ツアーをした「わくわく不倫旅行」(ともにV&R)など、同じAVとは思えないような作品を多数作っている。私はプロデューサーに回る。
そもそもAVは大きく二つに分かれる。単体と企画物。企画物はその字の通り女の子ではなく企画で売る作品となる。そのためギャラの安い女の子だったら誰でも選んで使える。メーカーのプロデューサーも「ポイントさえ押さえれば、好きに撮っていいよ」みたいな気軽さがある。が、単体となると事情は少し変わる。面接をしてから企画を考えるので女の子本位になる。企画はいってみればプログラムピクチャーで、単体は女優映画。
また企画の女の子は数がたくさんいるから中には面白い人(経歴とかアブノーマル系とか)もいて、その人から奇抜な企画を発案することもできるが、単体は一応選ばれた人たちで数も少なく平均的でしかないから企画がどうしても似たり寄ったりになってしまう。
平野はその企画物の監督。今まで思い通りに撮影してきたが今回は制約もある。宇宙企画のプロデューサーは宇宙少女(というメーカーイメージ)の延長線上の路線にしてほしいと。一体どうなるんでしょうか。いわば異種格闘技戦だ。
女の子はデビューの有沢成美という娘。どこにでもいそうな可愛い女の子。AV出演は他人には知られたくなく、プライベートなことをあまり喋りたがらない。この作品が終わったらAVギャルは辞めようなんて言ってる。
初日はスタジオでイメージとカラミから。いつもは面白味を男優で見せようと特殊男優を使うところだが、プロデューサーの要望により普通の男優になる。慣れてないイメージシーン(*女の子を可愛くイメージつけするのが慣れてないという意)の後、カラミを二つこなし終わって納得いかない様子。でも仕方ない。彼に限らず単体の女の子の撮影はなんか中途半端というか物足りなさを感じるものである。企画物の醍醐味はない。
彼が目指した本作品は自分と女の子との関係性であった。女の子が元彼にもらったという時計に、以前平野が恋人だった元彼女(林由美香)へ贈った時計をかけ合わせた。監督の平野と女優の有沢成美という関係性を横軸に、キーワードである時計を贈り・贈られた元彼・元彼女という縦軸の図式で構成しているはずである。(この時点でまだ未見。)
平野監督は大変スタイリッシュである。作品の構成からまず入っていく。例えば本物が出演する痴漢ビデオ。平野はこわもての痴漢達を暗殺者のように、作品自体をフィルムノアールのように描く。私なんかはとりあえず何も考えずに撮っちまう。構成はその後で考える。その辺が作家なんだろうな、彼は。私は単なるエロ屋(笑)。そこが彼の才能の一つであり、限界でもある。才能が故に受け入れる間口が小さくなっちゃう。AVの凄さって、素材(女の子)次第でものすごい傑作ができちゃったりする。例えば村西とおる監督の「SMっぽいの好き」(黒木香)がいい例。彼も自認しているが彼は映画畑の出身、AVには居場所がないという。ただAVはそういう異端さえも受け入れてしまう特殊性がある。
という訳でここまでは前編。
本編を観ました。メーカーのプロデューサーは「平野のキャラクターが強すぎるし、カラミが淡泊」という雰囲気の感想であった。
確かに平野作品のカラミは淡泊なものが多い。もう少しHだったら、とは思う。「女の子のその後をもっと見たかった」というプロデューサーにも同感である。が、プロデューサーが言うほど彼のキャラが強すぎるとは思わなかった。非常に好意的に女の子を描いてるので嫌味がないからだ。撮る側の「想い」を描いてるにすぎない。
メーカーイメージとの隔たりをプロデューサーは少し感じたようだが、それは当たり前で、平野自身に少女観がないからである。だから少女としての幻想作りには興味が持てない。プロデューサーは平野を同じ土俵の人間とまず勘違いしていた。彼は普通のスケベ監督ではないのだ。AVを撮ってる監督なのである。その辺を理解すると逆に彼のプロデュースが見えてくると思うのだが。
プロデューサーの感想は私にとってはちょっと意外でした。おそらく他のメーカーだったらお褒めの言葉をいただける作品だったのではないかと思います。それだけ宇宙少女というメーカーイメージは特殊なんですね。
宇宙企画と平野勝之の異種格闘技戦の結果は、平野の宇宙企画次作「金沢文子」で見極めたいと思う。