「実録SEX犯罪ファイル」

バズーカ・97年10月5日/11月25日


制作が二年越しになってしまった作品。二つのコーナーに分かれます。「パリ人肉食事件」と「中村屋事件」。


’97年1月末

ビデオに出演したいという女性(桐野ひろこ・雑誌の編集者24歳)を紹介される。会って驚く。彼女は1月24日に知り合いのAV男優(K君)に新宿の中村屋という喫茶店で刺されて全治10日の怪我を負わされたという。一緒にいた編集長も「誰でもよかった」と刺される。昼過ぎの喫茶店は血まみれになり騒然。もちろんその男優は現行犯で逮捕。彼女はその傷を売り物にしてビデオ出演したいと言う。 

運命を感じた。俺がドキュメント監督でこういうタイプの作品が好きであるし、その男優も知り合いで気に入っていた男優だったからである。

97年3月

この女性だけでは商品にならないので、もう一つのコーナーとして佐川一政氏を撮ることにする。言うまでもなく(と言っても知らない世代もいるけど)彼は17年前、留学先のパリで同じ留学中のオランダ人女性を殺害して彼女の肉を食べ逮捕されるが、精神鑑定で無罪になったという人。彼をモデルにした小説「佐川君からの手紙」(唐十郎)が当時芥川賞をとって話題になった。

現在は自身の事件に関することを主にテーマに本を書いたりしているが、AVでやりたいことがあるという。「監禁24時間」だと。作家としての彼を知っている女性たちは数多く会いに来てくれるらしいが、では何もしらない女性は自分のことをどう思うのか、事件を知らない女性と24時間一緒に監禁されたらどうなるのか。事件を知った時点で女はどう変わるのか、あるいは変わらないのか。もう女が泣き叫ぼうが、自分がどうなろうが監禁は続けてほしい。自分の生き方に関わる重要なことという佐川氏のストイシズムに感動さえ覚えた。

5月

中村屋事件の刑事裁判、始まる。

桐野ひろこと東京拘置所に行く。K君との面会と彼女へのインタビュー撮影のためである。そもそも事件の発端はK君が彼女に惚れたところから始まる。一時期二人は付き合っていた。彼女はそれを認めないんだけど。しつこいから付き合ってあげてたと言いきる。「私はあんたの女じゃないし、私がなにをしようがあんたには関係ない」とハッキリ伝え、彼は「それでもいいから付き合ってくれ」と言ったとか。彼女は彼の思い入れをいいことに都合良く使おうとする。K君が部屋を留守にするというので鍵を預かった彼女はk君の部屋に男を連れ込んでラブホテル代わりに使ったり、「全てはひろこさんのものだ」と想いを伝えたつもりのk君のお金を勝手に使っちゃったり。彼女に言わせれば「何してもいいからってk君が言うから、付き合ってあげてたの。そうでもなければあんなヤツとは付き合わない。」だと。

拘置所の面会でも「強い香水をつけてくればよかった。もっと嫌がらせできたのに」だって。もうサイテーの極み。

同月

監禁企画用の女の子を佐川氏と探し始める。ものすごく大変。だって内容は大変なのに佐川さん女にうるさいんだもん。好みのタイプがイングリッド・バーグマンとか鈴木京香。そんな女が企画女優にいるわけがない。そもそもAVギャルにそんな神様みたいに綺麗な女がいるか(笑)。

同月27日

中村屋事件裁判に判決出る。懲役2年。執行猶予なし。刑が重いのは、ナイフ4本と警棒一本をあらかじめ用意しての犯行だったのと、被害者と示談が進んでない為であった。K君としては刑を不服として申し立てするのは示談が進んでいない現状から、難しいと判断しようとしている。示談が済んで判決の日から二週間以内に不服申し立てをすれば、執行猶予付きの判決の可能性も出てくるらしい。

実は私は秘かにk君と桐野の「仲直り」を目指していた(笑)。調停しようと一人で勝手に企んでいたのだ。それをドキュメントしようと。今でも桐野に想いがあるk君と、一円でも多い賠償金をふんだくろうという桐野との仲直り。

早速、桐野にアドバイスする。k君とこのまま民事裁判で争って仮に莫大な賠償金の判決が出ても、実際に金の無いk君(プータロー)から賠償金をとるのは不可能に近いのではないか。裁判の勝ち損になってしまう。だったら民事裁判なんか時間と金のかかることをせずに、今ここで示談に乗る方が得策ではないか。桐野自身にも責任があるんだし・・ 彼女「私はなにも悪くない。悪いのは全てk君。私はk君に頼まれて付き合ってあげただけ」と歩み寄りの姿勢まったくナシ。二週間はなにする術もなく過ぎていった。

k君の刑が確定する。私はなにも出来なかった。

佐川クンの女探しと中村屋事件の双方の進展なし。佐川クンは「相手役の女優に自分が納得しなければ撮影に応じない」なんてFax送ってくるし、桐野は撮影に飽きちゃったらしく「カラミの相手は監督(私)じゃなきゃイヤ。でなければ撮影したくない」なんて無理言って、俺を困らせて喜んでいる。彼女は男をいじめるのがホントに好きらしい。

「仕事がやりづらくなるのが分かっていても、苛めだすと止まらなくなっちゃう」だと。k君の気持ちが分かる。

9月末

撮影を進めてくれない桐野ひろこ。もう俺は切れかかっていた。もう撮影をばらす覚悟で桐野に会う。相変わらず俺をからかっている。「もう撮影をばらそう」とハッキリ言うとそれじゃつまらないらしく、結局撮影OKになる。

10月5日

気が変わらないうちに桐野の本撮影を組む。彼女が連れてきたのはM気のある男優K4号というイジメ用の男だった。(男優は彼女自身で選ぶのが条件だった) 本当なら男優がリードして彼女をヘロヘロにしたいところだが、M男しかいないので必然的に女王様プレイになる。弄ばれ、なかなかイカせてもらえない男たち。K4号に至っては、なにもさせてもらえない。「私とHしたかったらナイフで手首を切ってみろ」とまで言われる始末。もともと桐野の個人奴隷だったk4号(もちろんk君の後がま4番手という意味)は最後には「眼が醒めた」らしい。結局ろくなSEXが撮れずに終わる。k4号をいじめるのに一生懸命になったら誰だって縮んじゃう。彼女にとってはSEXなんかどーでもよく、イジメが一番楽しいらしい。

11月24日

佐川クンのテレクラ初挑戦。テレクラで人肉食いの話を女の子たちはどう聞くのか。が、なかなか話をするまでたどり着けない。あっという間に切られてしまう。慣れてないのは仕方ないけど普通の女性との会話がものすごく下手(笑)。かろうじて中学生(と思われる)女の子に驚いてもらいました。

私が声をかけた女の子たち二人と喫茶店で会う。二人とも佐川さんのことは知らなかった。事件を話すとまるで有名人と会ったかのような反応。サインをもらったり著書を聞いたり、犯罪者というイメージはないみたい。多くの女性が佐川さんに会いに来るという噂にリアリティを感じた。

11月25日

いよいよ本撮影。企画を「監禁24時間」から「強制同棲24時間」に変更してようやく見つけたAVギャル・里中ゆり。この条件の中でよく見つけられたと思います。単体クラスの超かわいい女の子。この撮影をOKしたのは、なにかよく分からないけど自分の人生にとってプラスになるものがあるんじゃないか、と考えたそうです。真面目なんです、彼女。もちろん佐川さんのことは知らないし、ある作家としか伝えてません。佐川さんはあまりにゆりちゃんがかわいいのでもうご機嫌。今回の唯一の約束事として24時間内に三発のSEXをしてもらうこととする。とりあえず一発目。佐川さんのSEXの特徴は|風俗のお客さんのように寝たまま }注文がうるさく ~体力がなくすぐヘトヘトになるが、尻肉の匂いで精力を回復する。

打ち合わせでは「なにも言わずに死体写真をおもむろに見せ、女の子の反応を観察する」と言っていた佐川クン。が、ゆりちゃんに嫌われないように彼女のショックをなくすような話し方をする。私がクレームをつけると「監督は彼女が見たがらない写真を無理矢理見せようとしてる」と自分だけ良い子に早変わり。打ち合わせとのギャップの激しさ。「いざというと気が小さいから打ち合わせと違うことを言ってしまう」と後で反省してました。「自分の生き方に関わる重要なこと」というストイシズムは跡形もなく吹き飛んでしまう。

二発目は佐川さんの希望でオシッコ飲み。人肉を食べられない代償行為として愛好しているらしい。そう佐川さんは現在でも人肉を食べたいんです。当時は食べたいという妄想が大きくなりすぎての犯行だった。実際にライフルで殺してしまうと、妄想でのシナリオと現実のギャップが違いすぎた。妄想上ではお尻をガブリと噛めばおいしい肉が出てきたのだが、現実はお尻が噛みきれなかったり、ナイフで切っても脂肪ばっかりだったり、想像以上に血が多かったり。現実の裏切りに佐川さんは妄想に逃げ込んだため、事件の現実感が全然ないという。が、逮捕されてからの厳しい現実はもう体験したくないから殺さない・食べないだけという感じに見えました。

三発目は翌日の朝。女性からの奉仕SEXに必ずなってしまうので、最後は女性に奉仕してあげるというテーマで臨むが、やはりそれでは射精できずに|〜のリプレイになる。「奉仕しながら射精する男ってこの世にいるの?」だって・・・

佐川さんの前で自分のコメントを言いたがらなかったゆりだが、撮影後涙を流しながら「付き合う男すべてがストーカーになってしまう」と告白する。だから撮影が自分にプラスになるかどうかとかを考えたみたいです。そりゃそうだわ、「ホントに好きな男だったら、オシッコを飲んでもらえるのは私の喜びなんて考える」そうですから。男は彼女を離さないでしょう。ちなみに佐川さんとゆりは撮影後も(肉体関係はないみたいだけど)デートをしてるみたいです。

’98年4月

弁護士と一緒にK君の面会に刑務所を訪ねる桐野。民事裁判に関する打ち合わせであった。K君は「(ムショを)出たら必ず会いに行くから」とひろこに未練をまだ訴えているという。K君が出るのは99年4月である。出所したら民事裁判が彼を待っている。


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