「素人花婿募集ビデオ

結婚してみませんか?」

V&R 1998/7 〜 2000/1/8


1998/7
いつものようにプロダクションが面接に連れて来たAV女優・平野加奈子(という名前だったと思う)と盛り上がったのがビデオで結婚するという冗談のような企画だった。ホンマかいなと思いつつメーカーのV&Rにその話をしたら、企画が通ってしまった・笑。ではやりましょうという時になってその女優は逃げてしまう。

1998/秋
そんな企画もすっかり忘れた頃、「そういえばこんな企画もあった」と面接に来た女優に話したら、「私それやってもいいよ」と再び冗談企画が動き出すことになった。その女優が朝霧玲だった。そもそもこの企画は結婚相手を公募してお見合いした後、その中から相手を選んで本当に結婚する(籍を入れていただく)ドキュメント撮影である。
朝霧は広島でクラブを経営している女性で、「店の宣伝も兼ねて」が出演動機であった。監督としての目標は「愛を育む」。応募者に彼女の好みの男がいるとも限らない、どちらかと言えばAV女優好きの男たちが多いのでは、と予想される。応募者の中で果たして愛を育んでいく相手はいるのか、仮にお互いが気に入ったとしてもAVの企画でもありそれぞれの親族としての問題も出てくるかも。そう簡単に事は進まないだろうと肝に据える。お見合いのための告知を週刊誌等に出し、花婿を募集開始。


1999/1/31
お見合い当日。応募者は日本全国から70通を越えた。正直ここまで反響があるとは予想していなかった。来ても男優志望もどき程度と考えていたのは私だけではなく、朝霧も同じであった。
書類審査を通過した10数人と次々お見合いする。AVの面接ではないので、家の資産証明書や貯金通帳(中には金の延べ棒(笑)を持ってきたヤツもいた)を見せて彼女にアピールする。彼女が選んだ5人は、金は無いけど結婚を真剣に考えている男たちばかりだった。応募者たちの真剣さにほだされて彼女の態度もいつしか変わっていた。その中から結婚相手を選ぶ。選んだのは真面目な電気工事士(27歳)だった。

1999/2/8
婚前交渉の撮影の予定であったが、朝霧から「もう一度、相手を選び直させてほしい」と申し出があった。お見合いの撮影後、電話で「フィアンセ」と話したり実際に会っているうちに、お見合いでは分からなかった彼の頼りないところが見えてきたという。第三次審査まで残った応募者の中に候補者がいるらしい。仕方なく次に敗者復活戦をやることになった。
 そんな話し合いをしている頃、朝霧が所属するモデル事務所に警察の手入れが入っていた。容疑は労働派遣法違反、要はAV業界への見せしめみたいなものである。手入れのことは朝霧はつゆ知らず、また全く関係のないものであった。それを彼女が知ったのはその日の撮影が終わってからであった。


1999/3
敗者復活戦は私の父が危篤状態になり延期になっていた。父の葬式の翌日、久しぶりに朝霧に会う。彼女は思い詰めたように「この企画から降りたい」と言う。理由は「好きな男ができた」。その男とはよりによって彼女の所属する事務所のマネージャー。その男も同席して「マグロ船に乗ってでもキャンセル料を払う」という。彼は以前から彼女に「結婚してくれ」「俺もこの撮影に混ぜてくれ」と口説き続けてきて、ハナから彼女に相手にされていなかった男。事務所の手入れ騒ぎで唯一逮捕を免れ、急接近したようだ。マネージャーとの結婚を認めるから、それを撮らしてくれと頼んでも朝霧は好きな男が出来るとAVの仕事は続けられないという。撮影は事実上、中止せざるを得なくなった。新たにAVで結婚できる女を捜すか、朝霧が治るまで待つか・・・

その後、朝霧は精神的におかしくなり鬱病になってしまう。マネージャー氏は「鬱病になったのは監督の責任だ。キャンセル料は支払うが、それ以上の損害賠償を請求する」と逆に開き直る。マネージャーという立場をすっかり忘れ、この企画をぶち壊した張本人のくせに。

1999/4/5
撮影中止に追い込んだ責任を感じた朝霧が自宅の風呂場でカミソリで手首を切り、自殺未遂
その頃、彼女の父親も飛び降り自殺未遂。一時は半身不随の心配もあった。

1999/6
朝霧、マネージャー氏の子供を身籠もる。妊娠になってからは少しづつ鬱病が良くなってきたらしい。久しぶりにマネージャーに会った日は流産の可能性が出てきたちょっと危険な日であった。しびれを切らした私はマネージャーに「朝霧はもう出演しなくてもいい。代わりに朝霧の代役の女をたてるから、その女とマネージャー自身がビデオの前で絡んでくれ。それを撮れればこの仕事はなんとかなる。なんとかしてくれ。それが嫌ならキャンセル料を払ってくれ。」と詰め寄る。マネージャーは「仕事でセックスなんかしてしまったら離婚されちゃう」と平行線のまま何の進展もなし。マネージャー氏としてはキャンセル料を支払うのも損害賠償の裁判をおこすのも、かったるいのでノラリクラリと私と接しているのである。
その翌日、朝霧は流産する

1999/8/31
数ヶ月ぶりに会った朝霧はすっかり元気になっていた。流産は監督の責任だと言い出す。「妊娠で私が苦しんでいる最中に私の旦那にセックスしろなんて言う監督は人間じゃない。もう撮影には一切協力しない」 こちらにも言い分は山ほどある。自分が勝手に約束を破ったくせに、その責任をないがしろにしたまま好きなことを言えるのか? 彼女の言う通りに撮影してきた結果セックスシーンが一つもないのはどうしてくれる。言いたいことを彼女本人にぶちまけたかった。が、ここは自分を押さえて素直に謝り、「マネージャー氏との結婚式だけ撮らせてくれ」と頼んだ。朝霧は話せばわかるヤツというのが分かっていた。彼女は歩み寄りを見せてくれた。「セックス撮影はNGだけど、結婚式はしたかった」ので再び撮影に協力してくれることになった。

1999/9
敗者復活戦を予定していた応募者三名に新たなお見合いをしてもらう。朝霧との結婚はもう不可能なので別の女優を探し出していたのだ。安室えり・45歳の根っからの風俗嬢で、入籍OKという貴重な方。
それぞれお見合いをしてもらい双方の気持ちが合ったのは、朝霧の時と同じ電気工事士(27歳)だった。ようやくアダルトビデオとして成立するセックスが撮ることができた。安室と27歳は個人的に付き合ってもらい、朝霧との「合同結婚式」をゴールに目指すことにした。

1999/秋
安室と付き合いだした27歳は彼女と結婚までは出来ないと言い出す。安室には中学生になる子供もいるから理解はできる。本当に籍は入れなくてもいいから、結婚式だけ一緒に挙げてくれと頼む。

2000/1/5
合同結婚式の打ち合わせに都内の教会に行く。朝霧から合同結婚式へのクレームが入る。安室たちはどちらも両親が来ない偽の式である。そんな偽の式と一緒には挙げたくない、勘弁してほしいということだった。合同結婚式は直前にして取りやめとなった。

2000/1/8
朝霧とマネージャー氏との結婚式。両家の親族も出席しての慎ましいながらも厳かな式のVTRを私が撮り、三年に渡る失敗作に終止符を打った。


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